番外編 その6 長男の成長を感じた座談会

「二華中への道」の連載がひと段落した所でメールアドレスを公開したところ,何名かの方々から感想や質問が寄せられた。

メールで回答可能なものは回答していたのだが,「作文はどんなことを書いたのですか」「テーマはどうやって選んだのですか」など,メールではなかなか回答しにくい質問が寄せられるようになるに至り,「座談会」という形で集まり,そこで回答していくこととした。

会場を確保し,開催を告知し,レジュメを作る。
受験生時代に作ったキングジムやスケジュールボードなどを引っ張り出す。
参加者の名簿を整理し,名札を作成し,名札のケースを買ってくる。

座談会でも講義でも,準備のために忙しく立ち働いている時が,一番楽しい。

・・・

そして当日。レジュメやプロジェクター,実際に使ったキングジムやスケジュールボードなど,大荷物を抱えながら長男と二人で中央市民センターへ。

開場は13:00,開始は13:30なのだが,13:15には全員集合。参加者は4家族,赤ちゃんや幼稚園児も含めると(含めちゃイカンか)全部で11名の参加となった。

受験生は,6年生が2名,5年生が1名,4年生が1名で,お母さんと女の子の組み合わせが3組,ご両親と男の子の組み合わせが1組である。

・・・

ご挨拶,自己紹介に続き,座談会を開始。120分の枠の中で,私が用意したネタは以下である。時間にして90分の分量で,残りは参加者の方々に埋めてもらおうという心算である。

  • ご挨拶
  • 親子で100ます計算
  • 長男の一週間
  • 志願理由を明確に
  • 教材は何を使ったの?
  • 総合問題の学習方法
  • 作文の学習方法
  • 面接について
  • 勉強の記録を残そう
  • 親御さんへ
  • 質問回答,話題提供

いずれもブログに書いたことに若干手直しを加えたものであるから,ブログを読めば分かることばかりである。だがブログとは異なり,実際に目に見える成果物があって,執筆者がいて,現役の二華中生がいて,尋ねれば答えが返ってくるのである。

参加者は今日の日を楽しみにしていたのだろう。私の話に目を輝かせて,ウンウンと頷きながら聞いてくれる。

そうだった。

この顔が見たくて講師を始めたんだ。

参加者の反応がいい。反応のいい参加者は,講師のパフォーマンスを最大限に引き出す優等生である。

・・・

「キングジム持ってきて」
「あのページ開いて見せてあげて」
「この資料配ってくれるかな」
座談会の途中で,私から長男に次々と指示が飛ぶ。それをテキパキとこなす長男。

この年代ならば父親に逆らうことの一つもするだろうが,一言の文句も言わず,嫌そうにもせずに,私のサポートに徹している。父親が誰のために,何をしているのかを十分理解した上で,自分の役割をこなしている。

こいつ成長したな,と思った。

・・・

100ます計算。

ルールを説明した後,受験生,親御さん,長男の順に100ます計算を行い,スコアを発表しつつ自己紹介という流れである。

受験生のスコアは 108~232秒。
親御さんのスコアは 97~205秒。

最近の小学生は,100ます計算の経験があるのだろう。なかなかのスコアである。

そして長男。

参加者の注目を浴びながら,スタートの合図と共に,ます目を次々と埋めていく。受験後も続けていた毎朝の100ます計算は,二華中入学と同時に終わりとした。それから5ヶ月以上のブランクがある。流石に1分切りは無理だろう。そんなことを考えつつ,長男が100ます計算に取り組んでいる様をじっくりと見せてもらう。

右手がブルブルと細かく震えている。オシログラフが細かい振動を記録しているようにも見える。だが記録しているのは線ではなく,数字である。タテのますと,ヨコのますの加算結果が,一瞬も止まることなく記入されているのである。

震えているように見えたのは,数字を書くための指の動きだったのだ。速い。かくも速いとは。参加者も,目を丸くして驚いている。

そしてすべてのます目を埋め終えた。
スコアは55秒であった。

・・・

100ます計算を,座談会の最初に持ってきたのには意味がある。

圧倒的な実力差。

それを見せたかったのである。

「あ,すごいな」

と思ってくれれば,参加者は話を聞く姿勢を持ってくれる。聞く姿勢があれば,講師の言葉に説得力が出るし,参加者の吸収力が断然違うのである。今回その役目を長男に託したが,長男はその役目を見事に果たしてくれた。

こいつ成長したな,と再び思った。

・・・

一通りのネタを話し終え,参加者からの質問や話題提供の時間となった。

ここでちょっとした誤算があった。参加者からの質問のほとんどが,長男に集中したのである(実力差を見せたのは私ではなく長男だったから,当然そうなる)。

座談会の直前まで「分かんない質問が来たらどうしよう」と不安そうにしていた長男。だが蓋を開けてみれば、長男は全く臆することなく,相手の目を見て堂々と受け答えをしているのである。

親にとって,子はいつまで経っても「マイベイビー」。
そのベイビーが大人相手に,堂々と話をしている。
13歳。中学生。もうベイビーではない。理屈では分かっていても,それを実感したのは今日が初めてだったのかもしれない。

こいつ成長したな,と三たび思った。

・・・

座談会の最後。どうしても言っておきたいことがあった。

「試験ですから,受かることもあれば,残念ながら受からないこともあります。
 では,万が一受からなかったとして,皆さんは失うものがありますか?
 それまで勉強してきたことが皆さんの頭の中から消えてしまいますか?」

首を横に振る受験生達。

「そんなことありませんよね。
 たとえ受からなかったとしても,勉強したことはなくならないんです。
 むしろ,中学ですばらしいスタートが切れるんです。
 だから二華中は,受験するだけでも価値があるんです。
 受かるにこしたことはないけれども,別に受からなくたっていいんですよ。」

ホッとした表情を浮かべ,互いに顔を見合わせてニコッと笑う親子。肩の力が抜けた瞬間である。この親子なら,受験の本番でも最高のパフォーマンスを発揮してくれるだろう。

・・・

長男が私に,ボソッと言った一言がある。

「受験って訓練だよね」

この言葉を聞いて,「おぉっ、その通り!」と膝を打った。

いかに訓練するか。
いかに習慣づけるか。

それが大事なのである。

頭に鉢巻を巻いて「絶対受かるぞ!!」「オーッ!!」というのは,私は嫌い。そんな事はどこぞの塾の,暑いセンセに任せておけばよろしい。

受験は精神論ではない。

やるべきことを淡々とこなす。
歯を磨くように勉強を習慣付ける。
やる気が出なければ,やる気が出るように工夫する。
勉強に必要な基礎体力をつける。
足りない部分を発見し,補う。

その繰り返し。

それはまさに「訓練」そのものである。

・・・

座談会が終了し,参加者のみなさんはそれぞれ笑顔で帰っていった。

「この笑顔が見たくて座談会を開いたんだ」

私の言葉にウンと頷く長男。

カネになる仕事も大事だが,
カネにならない仕事も大事。

誰かの笑顔のためだけに骨を折る。長男にそれが伝わってくれればいいと思う。

飲み屋に入ってビールを飲みたいところであったが,ぐっと堪えてタコ焼きを買う。

今日,一番活躍したのは,間違いなく長男。長男の大好物であるタコ焼きを買って、労をねぎらう。

ハフハフとタコ焼きにかじりつくその姿は,いつものマイベイビーに戻っていた。

・・・

受験がそうさせたのか,はたまた二華中がそうさせたのか,私にとって,今回の座談会は図らずも,長男の成長を実感するいい機会であった。

長男はもう「マイベイビー」ではない。

一人の「男」である。

男としての成長。その瞬間に立ち会うことができたのは,父親冥利に尽きると言っていい。

・・・

長男の成長を実感したところで「二華中への道」も終点に到着である。

最後にお礼の言葉を皆様に。

「二華中への道」を読んで頂いたこと,感謝申し上げます。

ありがとうございました。

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